エッセイ

コロナウイルスと代議制民主主義

コロナウイルスが猛威を振るっている。日本での死者は200人台にとどまるが、欧米の一部の国は万単位の死者が出ている。

感染症への対策の基本は人の動きを減らし、相互の接触機会を下げることである。感染症が治らない場合、このことは代議制民主主義にとって不可欠な議会と選挙のあり方に重要な意味を持つ。

議会のあり方について論じてみよう。感染症が今後も猛威を振るう場合、議会のあり方を大きく変える可能性がある。

これまで議員が会議場に集まって議論を行ってきた。感染を避ける場合、これまでのように議員の位置が近い形で議論を行うことは危険ということになる。イギリスはすでに議場に入る議員の数を制限、入れない議員はテレビ会議で参加する。よく考えると日本の国会も議員が首相や大臣に対して質問を行うことが議会活動の相当な意味を持つ。対面で行わなくてもZoomなどのリモート会議システムで行い、他の議員はそれを傍聴するということも可能であろう。投票も電子投票システムで行うことは可能である。電子投票システムの導入は実は日本のように記名投票が少ない国にとっては重要な意味を持つ。日本では四つの投票方法がある。記名投票、起立採決、異議なし採決、押しボタン式投票がある。押しボタン式投票は参議院だけで用いられる。記名投票や押しボタン式投票は個々の議員の投票行動が記録される。しかし、衆議院では記名投票が用いられることは少ない。つまり個々の議員の投票行動は記録に残らないことが多い。電子投票システムが導入され、それが常態となれば、個々の議員の投票も記録されることになるだろう。これは有権者から見ると政治の可視化という意味では重要な改革となるはずである。Social Distanceは民主主義の深化をもたらすということである。

次に選挙のあり方への影響を考えてみる。選挙活動の仕方がまずかわるはずである。これまでのように多くの聴衆を集めて選挙活動や討論会を行うことは難しくなるだろう。選挙活動もテレビやリモート会議システムを用いて行うようになるだろう。例えばZoomで候補者の討論会を開き、それを関心のある有権者が聞くことが考えられる。

より重要なのは実際の投票をどう行うのかということである。感染が深刻になり、投票所に行くことも感染拡大のリスクを生むので好ましくないという認識が広く共有されれば、投票のあり方も見直されるかもしれない。

具体的には選挙にも電子投票システムを導入し、投票所に行かなくても投票することを可能にすることが考えられる。ただ、電子投票システムが導入された場合、これは別の意味で民主主義にとって重要な意味をもつ。電子投票システムがインフラとして備えられるようになれば、選挙以外にもこのシステムを使うことを求める声があがることは違いない。電子投票システムを使って国民投票をより多くの政策課題に対して行うことを求める声が上がってくることが予想される。現在日本では国民投票は憲法改正の場合においてのみ可能だった。

民主的正統性の観点からは国民投票は基本的には全ての国民が参加するために政策に対し正当性を加味できて、一見、好ましいように考えられる。ただ、国民投票は一つの問題に対して複数の政策が提案されている場合に政策相互の調整や政策を支持する利害関係者と調整を行うことには向いていない。調整にあたるのは政党や議員の方がたけている。ただ、国民投票の正統性は強い。電子投票システムによって簡便に行えるようになった場合、これを現在のように例外的な扱いとしつづけるためには代議制民主主義の長所を入念に説明する必要がある。我々は代議制民主主義の長所について改めて考えるべきである。

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