エッセイ

『香港の民主派活動家に対する圧力拡大 -国際社会の注視必要』

執筆者: 一橋大学法学研究科准教授 市原麻衣子

世界の注目がコロナウイルスに集まる中、香港政府が民主派の逮捕を続けている。平和的にデモを行った穏健派をも逮捕し、たとえ平和的なデモであっても、民主派デモに参加する者は取り締まるとの意思表示をしている。9月の立法会選挙に向けて民主派の逮捕および立候補剥奪が続く可能性があり、国際社会は注視が必要である。

(本稿は個人の見解を示したものであり、研究会、プロジェクト、JCIEの見解を代表するものではありません。)

 世界の注目がコロナウイルスに集まる中、香港特別行政区政府が民主派の逮捕を続けている。2月28日には民主派新聞『Apple Daily』創業者のジミー・ライ(黎智英)、労働党副主席の李卓人、民主党元主席の楊森が逮捕され、4月18日には香港の「民主主義の父」マーティン・リー(李柱銘)を含む15名の民主派活動家が逮捕された。どちらも罪状は、2019年に無許可デモを組織したり、無許可デモに参加したというものであった。

 香港政府はこれまでもデモ参加者を逮捕してきており、2019年7月以降逮捕者の数は現在までに8,300人以上となっている。その中でも2月28日および4月18日の逮捕は、デモ関連での逮捕基準が変化したことを示している。これまで逮捕者は、独立を主張するかデモで暴力を用いた者であった。これに対し2月および4月に逮捕された民主派活動家は、香港の独立を主張したことも、過激なデモを行ったこともない穏健派で、元立法会議員を中心とする比較的年齢層の高い民主派活動家らであった。平和的にデモを行った穏健派を逮捕したことは、たとえ平和的なデモであっても、民主派デモに参加する者は取り締まるとの意思表示を行っている。そして政府が許可しないデモに参加した者は、直近のデモ参加者であろうと昨年のデモ参加者であろうと、みな逮捕の可能性があると示唆している。

 これらの逮捕は、北京政府が香港政府への介入を強めていることを示すものでもある。香港の憲法にあたる香港特別行政区基本法(以下、香港基本法)は第22条において、北京政府の所属各部門は香港特別行政区の管轄事項に干渉できない旨定めている。しかし中国国務院香港マカオ事務弁公室および香港連絡弁公室(中連弁)は4月13日、中国国歌の侮辱を禁じる国歌条例案の審議が遅れているのは野党議員が議事妨害をしているためであるとして、野党議員および立法会の議事運営を批判していた。中連弁はさらに4月15日、早期に国家安全条例を制定して外国勢力の介入を阻止しデモ活動を予防するよう香港に求め、4月17日には中連弁は香港に介入する責任と権利があるとの見解を示していた。4月18日の民主派逮捕は、北京政府によるこうした一連の介入の直後に行われたもので、背後には北京政府の圧力があることを示唆している。

 香港政府が民主派の逮捕を活発化させた背景には、2つの目的があると思われる。第一に、今後予定されているデモへの警告である。今後は6月4日に恒例の天安門事件追悼集会、7月1日には香港返還記念日のデモが計画されている。例年大規模になるデモで、昨年の7月1日には200万人がデモに参加している。香港政府は民主派の逮捕を続け、デモ参加の帰結は逮捕であると脅しを掛けることで、これらデモへの参加を阻止しようとしている。

 第二に、9月に予定される立法会選挙に向けて、民主派候補者の立候補資格剥奪の素地を形成しようとしている可能性がある。逮捕されたある活動家は、逮捕がデモ参加者に対し、政治システムに参入すべきではないとのシグナルを送る意図を持っていると分析する。これまでも雨傘運動のリーダーなど、デモに関連して逮捕された民主派活動家らが議員資格を剥奪されるケースがあった。最近は野党議員に対する刑事告訴も増加しており、既に半数以上の民主派立法会議員が刑事責任を問われている。9月の立法会選挙に向けて様々な団体が選挙監視の準備を行っているが、民主派候補者に有罪判決を下して立候補資格を剥奪し、親中派にしか立候補資格を与えないならば、選挙当日の選挙監視も無意味になる。

 香港情勢の変化を巡り、今後注視すべき点は主に2点ある。第一に、一連の動きを通じて北京政府は香港基本法第22条に関する解釈を変更しており、香港マカオ事務弁公室と中連弁を通じた北京政府の介入が常態化してきている点である。民主派が一国二制度を瓦解させる動きに対して激しく抵抗してきたことに鑑み、北京政府の介入常態化はさらなる反発を招き、今後香港情勢はますます緊張度が高まるであろう。5月27日には、中国国歌の侮辱を罰する国歌条例案の審議が再開される予定であり、再び親中派と民主派の激しい対立が予想される。

 第二に、これまで最後の砦と考えられてきた司法の独立も今後さらに侵食される可能性が高い。2019年10月に香港政府が覆面禁止法を施行した際には、香港高等法院が違憲判決を下すなど、司法の独立性を維持していた。しかしその後、北京政府から香港の司法当局に対する圧力が強められている。中国の環球時報は、デモ参加者を罰するよう求める社説を掲載しており、5月15日には、2019年のデモ参加者が暴動罪として禁固4年の有罪判決を受けた。司法の独立が阻害されれば言論の自由も制限されることになり、香港の民主主義にとっての死亡宣告となる。

 立法会選挙が行われる9月に向けて、今後香港情勢は激化するであろう。命を懸けて巨大な力に立ち向かい、一国二制度を維持しようとする人々を孤立させないよう、国際社会は香港の情勢を注視しているとのシグナルを出し続ける必要がある。

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