一橋大学市原麻衣子教授による論考。国境を越えた影響工作、特に中国による影響工作はアジアでより深刻になっていることを指摘している。権威主義者によるコンテンツの拡散には様々な目的があるが、その一つが自国の人権問題を弁護し正当化するためで、「論点ずらし」、民主的社会の魅力低下、偽情報とプロパガンダを用いた右派と左派を対象としたナラティブの拡散など具体例を挙げて実証している。そのため、影響工作への対策を怠ると権威主義国における人権侵害への取り組みがなされないだけでなく、民主主義国における人権課題に関する対立も悪化することになると警告を鳴らす。対抗手段として影響工作に関する研究の促進、民間機関によるファクトチェックの普及、人権規範を侵食する議論に対するカウンターナラティブの考案が必要であると勧告する。影響工作へ対抗するに際して、権威主義国において市民はむしろ人権侵害の危機に晒されているため、影響工作を行っているロシアや中国の政府とその市民を混同しないよう注意を促す。
原文を読む Trans-national influence operations and their impact on human rights in Asia